失われたアート”Lost Art”(9/11同時多発テロ事件から10年を迎えるにあたって)
もうすぐあの9/11同時多発テロ発生から10年目を迎えようとしています。
今回は破壊されたワールドトレードセンターに存在した「失われたアート」について書いてみようと思います。(本事件で亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。)
ニューヨーク、マンハッタンに建っていたワールドトレードセンター(以後WTC)は日系アメリカ人建築家のミノル・ヤマサキが建築デザインを行い、1973年に完成しました(’72に1WTC(ノースタワー)、’73に2WTC(サウスタワー)が完成)。WTCは、公共建築や大型ビルを建てる際にその建設費の1%をパブリック・アートの購入に充てるという、現在では全米各地に広まっている条例を適用した先駆的なビル群でしたので、様々な場所でアートを目にすることが多かった建物でした。
1WTCエントランスのロビー中二階壁にはルイーズ・ネーベルソンの作品「Sky Gate」、

2WTCのロビーにはホアン・ミロのタペストリー作品「The World Trade Center Tapestry」 等の大きな作品が、
またWTCビル群の中心であるプラザにはフリッツ・ケーニッヒ (Fritz Koenig) の「The Sphere」が噴水の中心に美しく輝いていました。
この作品はケーニッヒが世界貿易を通して世界平和の象徴を表現したもので、WTCの崩壊後、大きなへこみや裂け目ができてはいましたが壊滅的な破壊はされずに残っていました。


作者のケーニッヒは当初この作品はこのテロで壊れてしまったと述べ、再展示にはあまり乗り気ではなかったとの事ですが、その後、自らがその修復と再展示に携わり、現在は9/11のメモリアルとして近くの公園(バッテリーパーク)に展示されています。

またその周辺には流政之の巨大な御影石の作品「Cloud of Fortress (雲の砦)」、
WTC1とWTC2の間にはジェームズ・ロザッティ (James Rosati) のステンレス製彫刻作品の「Ideogram」などが設置展示されていました。
また1987年のWTC7建設後、アレクサンダー・カルダーの「The World Trade Center Stabile」が設置され、その形が曲がったプロペラのようだということから「曲がったプロペラ(The Cockeyed Propeller)」と親しみを込めて呼ばれていました。同作品はその30%ほどが崩壊した建物から発見されましたが、完全な復元は不可能との決断に至り、残った部分を別の作品にするための作業に入っているとの事です。
その他有名な作品としては、ハント・スロネムの壁画「Fun Dancing with the Birds」、
ロメール・べアデンのタペストリー作品「Recollection Pond」、
ロイ・リヒテンシュタインの「The Entablature Series」、
1993年のWTC爆破事件の犠牲者を追悼するために爆発箇所に作られたエリン・ジマーマン作の「A memorial fountain」等がありました。
また、WTCビルにテナントとして入居していた会社にも多くの美術コレクションがされており、中でも1WTCの101階‐105階というほぼ最上階にオフィスを置き、658人の社員が犠牲となったボンドトレーディング会社のCantor Fitzgeraldはその創始者夫妻がロダン彫刻コレクションで有名で、約300点に上るロダンの彫刻、デッサン等が失われました。

9/11同時多発テロのうち、WTCに於いては2752人の尊い命が奪われ、また、貴重なアート作品の数々が失われました。パブリックアート、会社のアートコレクション等は当時の価格で約1億ドル以上の被害額だったとの事です。
しかし、この同時多発テロ事件をきっかけにアフガニスタン紛争、イラク戦争、今日でも続くテロ爆発として続いており、さらに多くの命や貴重な文化遺産が失われました。人間はアートのように言葉や国境を越えて人々に感動を与えるものを生み出すことができる一方で、その貴重なものを破壊できるものでもあります。
来月に10年を迎える9/11同時多発テロ事件を思い、今回のブログエントリーとなりました。