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肖像写真

Posted in Art exhibit,New! by Administrator on the December 7th, 2010

私は肖像写真が好きです。それは写真家の眼が被写体の個性を一瞬の時に凝縮することが出来、被写体を知らない者にでも、その人物がどのような人物なのかを想像さしめるからだと思います。

既に終わってしまった展覧会ですが、東京六本木の東京ミッドタウンフジフィルムスクエアで「昭和の風貌」展-時代を作ったヒーローたち-という企画展が今年の9月にありました。

展示されていたのは土門拳、浜谷浩、林忠彦、田沼武能、熊切圭介、齋藤康一ら6人の写真家の作品。太平洋戦争前後の混乱から高度成長、バブル経済と大きく変転した「昭和」の様々な姿を、俳優やスポーツ選手・実業家・作家ら時代の精神を体現した人々を写した映像によってたどる企画でした。

ここで写しだされた人々はモノクロのなかでその止まった時の瞬間を生きています。

ここで私が特に印象に残ったものひとつが三島由紀夫の肖像です。昭和45年11月に齋藤康一が撮影した三島由紀夫は池袋東武百貨店の「三島由紀夫展」のポスターを背景に日本刀を抜き、眺めている様子。顔には笑みを浮かべている。この写真を撮ってから1週間ほどして三島由紀夫は自決する。

このコントラストは一体何なのでしょう。応接室で三島由紀夫展のポスターの肖像を前にリラックスして刀を抜き話をしているさりげない様子は静かです。多分三島はこの時点で既に彼の小説の巧みな構造と同じように自分の終期を計画していたのではないでしょうか。それ故このように落ち着き、自らの最後の肖像写真を撮ったのではないでしょうか。また、撮影した齋藤康一もそれを知らなかったゆえにこうもリラックスした三島由紀夫の肖像をおさめることが出来たのだと思いました。

また、この展覧会のポスターにもなっている、太宰治の有名な肖像写真は林忠彦が銀座のバー「ルパン」で昭和21年におさめたもの。実はこの時林忠彦は別の小説家、織田作之助を撮影中に店のコーナーカウンターで坂口安吾の隣に腰掛け酔っている太宰に「おい、俺も撮れよ。織田作ばっかり撮ってないで、俺も撮れよ」と言われ、ちょっとむっとしながら「あの男はいったい何者ですか」と尋ね、「君、知らないのかい。あれが今売り出し中の太宰治だよ」ということで、最後に残る1本のフラッシュバルブで、ルパンのトイレの引戸を開けて、ギリギリ奥まで下がって撮影したものだそうです。

このストリーと、酔い、リラックスしてバースツールに胡坐をかくようなポーズは昨今の若者が太宰に対して持つ「憂鬱」や「退廃的」という言葉とは違う、どこか傍若無人な風貌。ポケットには丸めて入れられたらしき新聞または雑誌や、戦後を物語るかのような軍人靴にも年季が入っているかのように見えます。

私はこの写真が撮られた銀座の「ルパン」を初めて訪ね、この写真を目にした時に言葉にしようのない不思議な感動を覚えたことを思い出します。60数年の時の隔たりはあるものの、かつて太宰が通ったところに自分もいるということを実感した瞬間でした。

このように写真には写された被写体の存在した瞬間をおさめる記録的なところと写真家の鋭い眼で被写体を表現し、見る者を感動させる力があると思います。ご紹介したほかにも多くの素晴らしい昭和の肖像写真がありました。

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